まだ付き合ってもいない。おまけに、数日後には国に帰る。
普通に考えれば、告白なんてしない方がいい状況でした。
でも私は、バス停で彼女にこう言いました。
「あなたが好きです」。
あれから26年。今も続いている関係の、最初の一歩の話です。
体調を崩した日、彼女が付き添ってくれた
オーストラリアでのワーキングホリデー中のことです。
職場で出会い、初デートも済ませていた彼女とは、まだ「付き合っている」という関係ではありませんでした。
そんなある日、私は体調を崩し、病院へ行くことになりました。
彼女は、私がなぜ病院に行くのか、正直よくわかっていなかったと思います。それでも、診察が終わるまでずっと付き添ってくれました。
診察はかなり時間がかかりました。彼女にはその日の夕方から仕事があり、私は数日後に帰国することが決まっていました。
だからこそ、その日は最後にどうしても彼女に会っておきたかったのです。
バスが来た、その瞬間に
診察が終わり、私たちは病院の最寄りのバス停へ向かいました。
彼女はそこから仕事へ向かうバスに乗る予定で、私はフラットへ戻るバスを待つつもりでした。
バスが近づいてきたその瞬間、私の中で何かが動きました。
「今、伝えなければ、もう伝えられないかもしれない」

告った後
彼女がバスに乗り込もうとした、まさにその直前。私は彼女の名前を呼び、そして言いました。
「あなたが好きです」。
計画していたわけでも、タイミングを見計らっていたわけでもありません。ただ、あの瞬間を逃したら、もう二度と伝えられない気がしたのです。
不意打ちにあった彼女
突然のことに、彼女は明らかに戸惑っていました。
後から聞いた話では、あの瞬間、完全に不意打ちを食らった気持ちだったそうです。まだ付き合ってもいない相手から、しかも帰国直前という一番慌ただしいタイミングで気持ちを告げられたのですから、無理もありません。
その場では、これといった返事はありませんでした。彼女はバスに乗り込み、そのまま仕事へ向かっていきました。
私は彼女の背中を見送りながら、正直なところ、伝えたことを後悔してはいませんでした。ただ、彼女がどう思ったのか確かめる術もないまま、私は日本へ帰国することになりました。
毎日書いた手紙
日本に戻ってから、私はほとんど毎日のように彼女へ手紙を書きました。
振り返ると、人生の中であれほど誰か一人のために手紙を書き続けた時期は、他にありません。今の時代、手紙を書くことなんてほとんどありませんよね。
でも当時は、それが自分の誠実な気持ちを一番伝えられる方法だと思って、一生懸命書いていたのです。
すると彼女は、あの時とは違い、しっかりとした答えを返してくれました。その言葉に、私は確かな手応えを感じました。
あの日バス停での「好きです」は、決して一方通行では終わらなかったのです。
おわりに
まだ付き合ってもいない、しかも国と国が離れてしまう。普通に考えれば、うまくいくはずのない状況でした。

でも、あの一瞬の勇気が、私たちのその後の関係の出発点になりました。
完璧なタイミングでも、ロマンチックな演出があったわけでもありません。ただ、「今しかない」と思った瞬間に、素直な気持ちを口にしただけでした。
その不器用な一言が、今、26年続く私たちの関係の、最初の一歩だったのだと思います。
あなたにも、「今しかない」と思いながら、言えずに終わった瞬間はありませんか。


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